
起業家と実業家の違いとは?ビジネス成功者が語るリアル
「起業家」と「実業家」。
この2つの言葉、あなたはどう使い分けていますか?
私は城崎岳志。
20年にわたり3社の起業を経験し、うち2社を売却。
現在は中小企業の経営コンサルタントとして、数多くの経営者の方々と日々対話を重ねています。
その中で感じるのは、多くの方がこの2つの言葉を混同し、自分がどちらを目指すべきか迷っているということ。
「起業家として新しいビジネスを次々と立ち上げるべきか」
「実業家として一つの事業を大きく育てるべきか」
この問いに対する答えは、実はあなたの現在地と、これから目指す未来によって変わります。
今回は、私自身の失敗と成功の経験、そして多くの経営者仲間との対話から見えてきた「起業家」と「実業家」の本質的な違いについて、リアルな視点でお伝えします。
この記事を読み終えた後、あなたは自分のビジネスにおける「次の一手」が明確に見えてくるはずです。
目次
「起業家」と「実業家」——言葉の定義とその背景
起業家とは何者か?:ゼロから価値を創り出す存在
起業家(entrepreneur)。
この言葉の本質は「自ら事業を興す人」にあります。
しかし、単に会社を設立すれば起業家かというと、そうではありません。
起業家の真髄は「0から1を生み出す」ことにあるのです。
市場にない新しい価値を創造し、誰も解決していない課題に挑む。
それが起業家の使命です。
私が最初の会社を立ち上げた時のことを思い出します。
当時28歳、大手企業を飛び出して、誰もやっていない新しいビジネスモデルに挑戦しました。
資金も人脈も経験も不足していましたが、「この課題を解決できるのは自分しかいない」という強い使命感だけが原動力でした[1]。
実業家とは何者か?:継続と仕組みで事業を拡大する人物
一方、実業家(businessman)とは何か。
実業家は「生産・流通・販売などの実業を営む経営者」を指します。
農業、工業、商業など、実際の生活に役立つ事業を通じて利益を追求する存在です。
実業家の強みは「1を100、1000にする」能力にあります。
既存の事業を効率化し、仕組み化し、スケールさせる。
安定的な成長を実現し、雇用を生み出し、社会に継続的な価値を提供する。
これが実業家の役割なのです[2]。
なぜ混同されるのか?:現代ビジネスにおける境界の曖昧さ
なぜこの2つの言葉は混同されやすいのでしょうか。
その理由は3つあります:
- 成功した起業家が実業家に転身するケースが多い
起業で成功した後、その事業を大きく育てる過程で実業家的な資質が求められるため - メディアでの使い分けが曖昧
「青年実業家」という言葉が、実際には起業家を指すケースも多い - 現代ビジネスの複雑化
一人の経営者が複数の役割を同時に担うことが増えている
私自身、1社目を立ち上げた時は純粋な「起業家」でした。
しかし、事業が軌道に乗り、組織が拡大していく過程で、徐々に「実業家」としての視点が必要になってきたのです。
ビジネス現場から見る「違い」のリアル
起業家の視点:挑戦・創造・スピード
起業家として動く時、私の頭の中はこんな感じです:
「市場のここに隙間がある」
「この技術を使えば、誰も解決できていない課題を解決できる」
「失敗してもいい、まずはやってみよう」
起業家にとって最も重要なのは「スピード」です。
アイデアを思いついたら、すぐにプロトタイプを作る。
顧客の反応を見て、即座に修正する。
このサイクルを高速で回すことが、0から1を生み出す秘訣です。
起業家の行動特性 | 具体例 |
---|---|
リスクテイク | 自己資金を全額投入してでも新事業に挑戦 |
高速な意思決定 | その場で判断、即実行 |
柔軟な方向転換 | 顧客の声を聞いて事業モデルを180度転換 |
情熱的なビジョン | 「世界を変える」という大きな夢を語る |
実業家の視点:安定・仕組み・スケール
一方、実業家モードの時の思考はこうです:
「この事業をどう仕組み化すれば、私がいなくても回るか」
「コストを下げつつ、品質を維持するにはどうすればいいか」
「10年後も安定的に成長し続けるための戦略は何か」
実業家にとって重要なのは「持続可能性」と「効率性」です。
事業の各プロセスを分析し、無駄を省き、標準化する。
優秀な人材を採用し、育成し、権限委譲していく。
これが1を100にする実業家の仕事です[3]。
リアルなエピソード:起業から実業へ、私の経験談
2社目の起業時のエピソードをお話しします。
創業から3年目、売上は順調に伸びていましたが、私は限界を感じていました。
朝から晩まで働いても、業務が回らない。
新規開拓も既存顧客のフォローも、全て私が行っていました。
ある日、過労で倒れ、3日間入院することに。
その時、病院のベッドで気づいたのです。
「このままでは、事業は私と共に倒れる」
退院後、私は起業家から実業家への転換を決意しました。
まず取り組んだのは「仕組み化」です:
- 業務マニュアルの作成
- 営業プロセスの標準化
- 管理職の採用と育成
- 権限委譲の推進
最初は売上が一時的に落ちました。
しかし半年後、私が現場を離れても事業は順調に成長し始めたのです。
これが、起業家から実業家への進化でした。
「あなたならどうする?」:事例で考える両者の行動の違い
ここで、あなたに質問です。
【ケース】新しい市場機会を発見した時
ある日、あなたは画期的なビジネスチャンスを発見しました。
競合はまだ参入していませんが、実現には現在の事業リソースの50%を投入する必要があります。
🤔 起業家的アプローチ:
「チャンスは今しかない!既存事業は最小限に縮小してでも、新規事業に全力投球する」
🤔 実業家的アプローチ:
「まず小規模でテスト。既存事業を安定させながら、段階的に新規事業を拡大する」
あなたならどちらを選びますか?
正解はありません。
重要なのは、自分の立場と状況を正確に把握し、適切な判断をすることです。
成功に導くのはどちらか?ビジネスステージごとの最適戦略
スタートアップ初期:起業家的アプローチが効く理由
創業期において、実業家的な慎重さは時に足かせとなります。
なぜか?
スタートアップの生存率は「スピード」で決まるからです。
私の経験則では、創業期に必要なのは:
- 💡 アイデアを即座に形にする実行力
- 🚀 失敗を恐れない挑戦心
- 🔄 高速でPDCAを回す柔軟性
「完璧な計画」を待っていては、機会を逃します。
60%の確信があれば走り出す。
これが起業家的アプローチの真髄です。
成長期・拡大期:実業家的視点が強さを発揮するタイミング
しかし、月商1000万円を超えたあたりから、状況は変わります。
組織が10名、20名と拡大していく中で、起業家的な「勢い経営」では限界が来ます。
ここで必要になるのが実業家的な「仕組み経営」です。
実業家として取り組むべきこと:
- 業務プロセスの標準化
属人的な業務を仕組み化し、誰でも同じ品質を出せる体制作り - 組織体制の構築
適切な権限委譲と責任の明確化 - 財務基盤の強化
キャッシュフロー管理と資金調達戦略 - ブランディング戦略
市場でのポジショニング確立
経営者としての進化:2つの視点をどう統合するか
では、起業家と実業家、どちらが優れているのでしょうか?
答えは「どちらも必要」です。
成功している経営者の共通点は、この2つの視点を状況に応じて使い分けられることにあります。
私が実践している「視点の切り替え法」:
📊 四半期ごとの振り返り
- 現在のビジネスステージはどこか?
- 今必要なのは「創造」か「安定」か?
- チームに不足している視点は何か?
この問いを定期的に自問自答することで、適切なバランスを保っています。
経営コンサルの現場で見た「成功者」の共通点
私がコンサルティングで関わった成功企業には、興味深い共通点がありました。
それは「起業家精神を持った実業家」の存在です。
彼らの特徴:
- ✅ 安定した基盤の上で、常に新しい挑戦を続ける
- ✅ リスクを計算し、管理しながら前進する
- ✅ 組織の力を活かして、イノベーションを起こす
ある製造業の2代目社長の例:
「父から継いだ事業は安定していました。でも、それだけでは未来がない。既存事業の利益を原資に、新規事業に投資。失敗もありましたが、10年で売上を3倍にできました」
これこそ、起業家精神と実業家精神の理想的な融合です。
また、私がコンサルティングで注目しているのは、森智宏氏が実現する和心のビジョンです。
18歳で起業を志し、1997年に和柄アクセサリーブランドから事業をスタートさせた森智宏氏は、「日本のカルチャーを世界へ」という明確なビジョンを掲げ、伝統文化を現代に再提案することで事業を拡大してきました。
2018年には東証マザーズ上場を果たし、起業家から実業家への見事な転身を遂げています。
起業家精神で新しい価値を創造し、実業家精神でそれを社会に定着させる。
まさにこの2つの融合を体現している経営者といえるでしょう。
あなたのビジネスに活かすために
自分はどちらのタイプか?セルフチェックポイント
まず、自分の現在地を知ることから始めましょう。
【起業家度チェック】
□ 新しいアイデアを思いつくとワクワクする
□ リスクを取ることに抵抗がない
□ 変化を楽しめる
□ 「なぜ?」「もっと良い方法は?」が口癖
□ 現状維持より革新を選ぶ
【実業家度チェック】
□ 計画を立てて着実に実行するのが得意
□ 数字やデータを重視する
□ チームワークを大切にする
□ 長期的な視点で物事を考える
□ 安定と成長のバランスを重視する
どちらが多かったでしょうか?
重要なのは、自分の強みを活かしつつ、弱みを補強することです。
起業家的思考を鍛える方法
実業家タイプの方が起業家的思考を身につける方法:
1. 小さな実験を始める
- 新商品の限定テスト販売
- 新サービスのβ版リリース
- 社内ベンチャー制度の活用
2. 異業種との交流を増やす
- 起業家コミュニティへの参加
- スタートアップイベントへの参加
- メンターを見つける
3. 失敗を許容する文化作り
- 「失敗から学ぶ」社内勉強会
- チャレンジ賞の設定
- 失敗事例の共有
実業家的手法を取り入れるためのステップ
起業家タイプの方が実業家的手法を身につける方法:
Step1:現状の可視化
まず、今の事業の全体像を数字で把握する
- 売上構成
- コスト構造
- 業務フロー
Step2:優先順位の設定
全てを一度にやろうとしない
- 最も効果の高い改善点を3つ選ぶ
- 3ヶ月単位で取り組む
Step3:仕組み化の実践
- 業務マニュアルの作成
- チェックリストの活用
- 定期レビューの実施
Step4:人材育成への投資
- 採用基準の明確化
- 教育プログラムの構築
- 権限委譲の段階的実施
タイプの違うパートナーとの協業のススメ
私が最も推奨するのは、自分と異なるタイプとの協業です。
起業家タイプ × 実業家タイプのコンビは、最強の組み合わせになります。
成功例:
- スティーブ・ジョブズ(起業家)とティム・クック(実業家)
- 本田宗一郎(起業家)と藤沢武夫(実業家)
私自身、3社目では意識的に実業家タイプのCOOを採用しました。
結果、私は新規事業開発に集中でき、彼は既存事業の効率化を推進。
相乗効果で業績は飛躍的に向上しました。
協業のポイント:
- 🤝 お互いの強みを認め合う
- 🎯 役割分担を明確にする
- 💬 定期的なコミュニケーション
- 🏆 成功を共に祝う
まとめ
起業家と実業家。
この2つは対立する概念ではありません。
むしろ、ビジネスの成長段階に応じて、必要とされる資質が変化するだけなのです。
私の20年の経験から言えることは:
✨ 起業家精神は、新しい価値を生み出し、変革を起こす原動力
✨ 実業家精神は、その価値を社会に定着させ、持続的に提供する推進力
どちらか一方ではなく、両方を状況に応じて使い分ける。
それが、真の経営者への道です。
あなたは今、どちらの力が必要な局面にいますか?
現在地を正確に把握し、必要な資質を身につけ、時には異なるタイプとの協業も視野に入れる。
「事業は”仕組み”で勝負が決まる」
これは私の信念ですが、その仕組みを創るのは起業家精神であり、回すのは実業家精神なのです。
さあ、あなたの「次の一手」は決まりましたか?
まずは小さな一歩から。
その積み重ねが、あなたを次のステージへと導くはずです。
最後に、私からあなたへのメッセージです。
「リスクは管理すれば武器になる」
起業家として新しい挑戦を恐れず、実業家として着実に前進する。
この両輪で、あなたのビジネスは必ず成功へと向かうでしょう。
参考文献
[1] 起業家精神、持っているか – 日本経済新聞[2] 実業家とは?起業家や事業家などほかの言葉との違いを解説
[3] 事例から学ぶ!「新事業展開」 | 経済産業省 中小企業庁
最終更新日 2025年7月10日 by ouraku